ASD(自閉スペクトラム症)の特性とは?よくある困りごと、効果的な支援方法を徹底解説!
COLUMN
ASD(自閉スペクトラム症)は、子どもの発達における特徴の一つであり、早期の気づきと適切な支援がその後の生活の質を大きく向上させる鍵となります。
本記事では、ASDの基本的な特性や原因、年齢別の特徴、そしてご家庭で実践できる支援方法について詳しく解説していきます。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性とは?
自閉スペクトラム症(ASD)は、人とのコミュニケーションや社会的な関わりに困難さを感じる特性を持つ発達障害の一つです。近年の調査では、およそ20〜50人に1人の割合で見られ、男性は女性の約2〜4倍の割合で診断されています。この特性は生まれつきのもので、決して育て方や環境が原因ではありません。
ASDの特性としては、「社会性・コミュニケーションの難しさ」「興味・関心の狭さ、偏り」「感覚(刺激)の過敏さ、または鈍感さがあげられます。
ASDの原因とは?現代の医学で分かっていること
就学前の4-5歳児におけるASDの有病率は約3.5%という報告があります。
性別による発現率には大きな差があり、女性1に対して男性は2〜4倍の割合でASDと診断される傾向にあります。この男女差の背景には、女性の脳の構造に「遺伝変異の耐性」があることが影響している可能性が指摘されています。
ASDの特性は早ければ1歳半の乳幼児健康診査で気づかれることがあり、生まれつきの脳機能の特性によるものと考えられています。重要なのは、ASDは親の育て方やしつけ、本人の性格が原因ではないということです。これまでの多くの研究から、親の養育態度や環境要因が原因ではないことが明確になっています。
遺伝的な要因や脳の発達に関する研究は現在も進められていますが、特定の原因はまだ明らかになっていません。ASDは病気というよりも、生まれつきの「特有の性質(特性)」として捉えることが適切とされています。
ASDの特性とは?わかりやすい具体例で解説
ASD(自閉スペクトラム症)は、それぞれの子どもによって特性の表れ方が異なるが、共通して見られる特徴があります。
① 社会性・コミュニケーションの難しさ
ASDの子どもたちは、言葉や視線、表情、身振りなどの非言語的なコミュニケーションに課題を抱えることが多いです。
例えば、相手の気持ちを表情から読み取ることが難しかったり、場の空気を理解しにくかったりします。これにより、友達との会話がぎこちなくなったり、誤解を招くことがあります。
また、冗談や例え話を文字通りに受け取ってしまうため、意図をくみ取れず戸惑うこともあります。
② 興味関心の狭さ、隔たり
特定の物事に強い興味や関心を持ち、それに没頭する傾向があります。
例えば、電車や地図、図鑑といった分野に関して深い知識を持つ子どももいます。一方で、決まった順序や方法へのこだわりが強く、急な予定変更や思い通りにならない状況に対して混乱を感じることがあります。
これがストレスやトラブルの原因になってしまうこともあります。
③ 感覚(刺激)の過敏さ、または鈍感さ
音や光、触覚などの感覚刺激に対して、過敏または鈍感な反応を示す場合があります。
例えば、大きな音に驚きやすい、特定の光を避けたがる、一部の食感や味に対して強い拒否感を示し変色傾向になるなどが挙げられます。
こうした感覚の違いが、日常生活の中で不快感やストレスを引き起こしやすい要因となることがあります。
ASD(自閉スペクトラム症)以外の障害を併存することも
ASDの特性は、一人一人異なる多様な表れ方をします。また、ASDの方の約70%以上が1つの精神疾患を、40%以上が2つ以上の精神疾患を併存していると報告されています。中でもADHDの特徴が出ることは多く、ASDの50〜70%の人がADHDを併存しているという結果も出ています。ASDとADHDは類似した症状があり、両者を明確に区別することが難しい場合もあります。
ここで一番大切なことは、ASDを一律に捉えるのではなく、個々の特性や強みを理解することです。発達障害の種類が何かではなく、一人ひとりにどういう特徴があるのかに焦点を当てることで、独自の才能や可能性が広がっていくこともあります。
年齢別に見るASDの特性の表れ方
ASDの特徴は早い段階から現れることがあり、一般的には3〜6歳頃に診断されることが多いとされています。ただし、その表れ方には個人差が大きく、以下に挙げる特徴はあくまで一例です。これらの特徴が見られたからASDであるとは限らず、逆に一見するとASDに見られなくてもASDであることもあります。気になる点がある場合には、自己判断を避け、専門の医療機関で相談することが大切です。
乳幼児期(0歳〜1歳)でよく見られるASDのサイン
この時期は、主に人との関わり方や生活面での特徴が表れる時期です。赤ちゃん一人ひとりのペースがあり、特性も多様ですが、以下のような特徴が見られることがあります。
人との関わりの面
- 抱っこを嫌がる: 体に触れられることを嫌がり、抱っこされると泣き出してしまうことがあります。
- 視線が合わない: 人の目を見るのが苦手で、目が合う時間が短いことがあります。
- 反応が少ない: あやしても笑わなかったり、音や動きへの興味を示さない場合があります。
- 名前を呼んでも振り向かない: 呼びかけに対する反応が乏しいことがあります。
生活面
- 寝つきが悪い: なかなか寝つけず、夜泣きが多い場合があります。
- ミルクを飲まない: 食欲にムラがあり、授乳が難しいことがあります。
- 小さな音に敏感: 電話の音や家電の動作音など、他の赤ちゃんが気にしない音に強く反応することがあります。
- 笑顔が少ない: 表情の変化が乏しく、笑顔をあまり見せない場合があります。
これらの特徴は発達の一環として見られることも多いですが、気になる場合には早めに専門家に相談することで、適切なサポートを受けることができます。
保育園・幼稚園(2〜5歳)のASDの特徴
2~3歳頃の特徴
- 言葉の発達の遅れ: 発語が少なく、簡単な指示(例:「おいで」「すわって」)を理解するのが難しい場合があります。
- 感覚面の違い: 触られることを嫌がる、または特定の感覚刺激(特定の音など)に強く反応することがあります。
- 対人関係の特徴: 視線を合わせにくい、ひとり遊びを好むことがあります。他の子どもと一緒に遊ぶより、自分の興味を優先することが多いです。
4~6歳頃の特徴
- 社会性の発達: 他の子どもとの関わりが増える中で、友達とうまく遊べない、集団行動が苦手といった面が見られることがあります。
- こだわりの強さ: 特定の物の配置や順番への強いこだわりがあり、こだわりが満たされないと強い不安や抵抗を示すことがあります。
- 遊びの特徴: ごっこ遊びが苦手であったり、同じ遊びを何度も繰り返す傾向があります。
小学校(6歳〜12歳)のASD特性と学習・社会面での課題
この時期には、学習や社会性の面での特性が顕著になります。
学習面の特徴
- 集中力の課題: 授業中に席を保つのが難しい、集中力が続かないといった特徴があります。
- 環境への敏感さ: 教室内の騒音や照明に敏感に反応し、学習に集中するのが難しい場合があります。体育館など反響しやすい場所で特徴が顕著に表れることもあります。
社会性の特徴
- 友人関係の難しさ: 他の子どもの気持ちを汲み取ることが苦手で、誤解やトラブルが起きやすいことがあります。
- 一人を好む傾向: グループ活動を避け、一人で過ごすことを選ぶことがあります。
感覚面の特徴
- 感覚過敏: 音や光に敏感で、体育館での集会や音楽会などの大きな音が苦手なことがあります。
- 予定変更への不安: 突然の予定変更や普段とは違うスケジュールに適応するのが難しく、不安を感じる場合があります。
中学校・高校生(13歳〜18歳)でよく見られる特性と思春期特有の課題
思春期の身体的・心理的な変化とともに、対人関係や学習面での課題が現れやすい時期です。
コミュニケーションと社会性
- 対人関係の課題: 会話が一方的になったり、相手の話を遮ることで友人関係が難しくなることがあります。また冗談を本気で捉えてしまいがちで、コミュニケーションがしづらいと思ってしまうことがあります。
- 自己認識の影響: 周囲との違いを感じることで、自己肯定感が低下しやすくなる傾向があります。
学習面の特徴
- 得意・不得意の差: 科目による理解度のばらつきが大きく、計算は得意でも文章問題が苦手などの特徴が見られます。
日常生活での困難
- 提出物の期限を守るのが難しい
- 忘れ物や遅刻が多い
- 学校行事への参加に抵抗感を示す
感覚面の特徴
- 体育館や文化祭などの騒音や人混みに不快感を示す場合があります。
これらの特性は、発達の過程で見られる個々の特徴の一例であり、子どもの成長や環境によって変化することがあります。保護者や周囲の大人が、子どもの特性を理解しながら柔軟にサポートすることが大切です。
ASDの診断基準と治療法について
ASDの診断はDSM-5の基準に則っています。該当する項目があったからと言って、ASDであると決まるわけではありません。医師の専門知識と経験の元にしっかりと診察を受け、その上で決定します。また、早期発見・早期支援が効果的なことも多いため、気になる点があれば、自己判断ではなく、医療機関での診断を受けることが重要です。
また、ASDの治療は、その子どもの特性や年齢に応じて、複数のアプローチを組み合わせて行われます。ASDは特製の一つであり、適切な支援により、お子さまの生活の質を大きく向上させることを目的としています。
DSM-5に基づくASDの診断基準
ASDの診断は、アメリカ精神医学会が定める「DSM-5」という基準に基づいて行われます。この診断基準は以下の特徴に分けられています。
1. 社会的コミュニケーションおよび相互関係における特徴
- 感情や気持ちを共有することが苦手:会話のキャッチボールや感情表現が難しい場合があります。
- 非言語的コミュニケーションが難しい:視線を合わせる、ジェスチャーを使うといったスキルが未熟なことがあります。
- 人間関係の構築が難しい:友達を作ることが苦手だったり、関係を維持するのに困難を感じる場合があります。
2. 限定された興味や繰り返しの行動
- 同じ動作や言葉を繰り返す:特定の動きやフレーズに強くこだわることがあります。
- 決まったルールや習慣への強いこだわり:日常生活の変化を嫌がる場合があります。
- 特定のものや活動への強い興味:他のことには目を向けず、特定の興味に集中することがあります。
- 感覚に対する独特な反応:音や光などに対して敏感、あるいは鈍感な場合があります。
3. 発達の早い時期に症状がみられる
多くの場合、3歳までに何らかの特徴が見られることが一般的です。早い段階で発見されることで、適切な支援が受けられる可能性が高まります。
4. 日常生活に影響を及ぼす
学校や家庭、友達関係において、コミュニケーションに困難を感じることがありますが、適切なサポートにより特性に合った対応が可能になります。
ASDの治療法と支援の具体例
ASDの治療、支援は一人ひとりの特性に応じて柔軟な方法を組み合わせることが重要です。
1. 薬物療法
心理療法は、ASDを持つお子さんやそのご家族が、日常生活で抱える課題を解消し、より良い生活を送るために必要なスキルを育むことを目的としています。
- 個別療法
- 自分の気持ちや考えを整理する方法を学ぶ
- 感情やストレスを適切に表現・コントロールする力を育てる
- 自己理解を深め、自信を持てるようになる
- グループ療法
- 他の子どもたちとの交流を通じて、他者と協力する力を育てる
- 社会的な場での適切なふるまいを学ぶ
- 共感や感情共有のスキルを磨く
- 家族療法
- 家族全体でASDに対する理解を深め、適切な対応方法を学ぶ
- 家庭内のコミュニケーションを円滑にする
- 子どもの特性に合わせた支援方法を家族で実践する力を身につける
2. 環境調整
環境調整は、子どもが安心して生活できる環境を作ることに重点を置き、日々のストレスを軽減するためのサポートを行います。
- ストレスを軽減する環境作り
- 静かで穏やかな空間を整える
- 子どもが安心して過ごせるルーティンやルールを設定する
- 感覚過敏に配慮した生活環境(音や光、触感など)を整備する
- 合理的な配慮
- 学校や職場で、スケジュール調整や休憩スペースの提供などを行う
- 学びや働き方を子どもの特性に合わせて柔軟に対応する
- 周囲との摩擦を減らし、子どもがのびのびと過ごせる環境を提供する
3. ソーシャルスキルトレーニング(SST)
SSTは、日常生活や社会で必要なコミュニケーションや対人スキルを段階的に学ぶことを目的としています。
- コミュニケーションの練習
- 挨拶や会話の仕方を学ぶ
- 自分の意見や気持ちを伝える練習をする
- 相手の話を聞くスキルを磨く
- 対人スキルの向上
- 友達や大人と適切な関係を築く方法を学ぶ
- トラブルが発生した際の解決方法を練習する
- 他人の気持ちを理解し、共感する力を養う
4. 薬物療法
薬物療法は、特定の症状を和らげるために使用される場合があります。対象となる症状
- 多動性や衝動性を軽減する
- 不安やストレスを緩和する
- 睡眠障害を改善し、安定した生活リズムを作る
- てんかんなどの合併症状をコントロールする
薬物療法は医師の指示のもとで行われます。
ASDの特性がある子どもと接する際の5つのポイント
① 言葉は短い言葉で、具体的に伝える
ASDのお子さまは、抽象的な表現や比喩を理解することが苦手です。「もうすぐ」といった曖昧な表現ではなく、「5分後」というように具体的な言葉で伝えましょう。また、「乱暴にしてはダメ」という否定的な表現ではなく、「優しく触ってあげようね」といった具体的な行動を示す表現を使うことが効果的です。
②「してほしいこと」や「見通し」を視覚的に伝える
予定の変更や新しい状況は不安の原因となりやすいため、スケジュールを視覚的に示すことが重要です。絵カードやタイマーを使って活動の区切りを示したり、次の行動を事前に写真で伝えたりすることで、見通しを持ちやすくなります。
③ 「できた」時はしっかり褒める
上手にできたことは必ず言葉にして褒めることが大切です。特に、新しい行動ができたときや指示に従えたときには、具体的な言葉で褒めることで、自信につながります。
④ 興味・関心があることで不安を解消できるような環境を用意する
何もすることがないと不安定になりやすいため、待ち時間などには好きな遊びができる環境を整えましょう。絵を描けるホワイトボードやパズルなど、興味のある遊びを用意することで、落ち着いて過ごすことができます。
⑤ 子どもと自分の「感覚」の違いに配慮する
感覚過敏がある場合、特定の音や場所を苦手とすることがあります。これは単なるわがままではなく、本人の特性と関係があります。音に敏感な場合はイヤーマフを使用するなど、環境面での配慮を行うことも検討していきます。
ASDの特性に合わせた具体的な支援方法
ASDの特性を持つお子さまが安心して生活し、成長できるようにするためには、個々の特性に合わせた支援が重要です。特性の出方には個人差があるため、症状ごとではなく一人ひとりのお子さまにあったサポートが重要となります。
1. 構造化された環境での支援
ASD特性を持つお子さまが安心して過ごせるよう、環境を整えることが大切です。個室や仕切りのある空間を用意することで、外部の刺激を抑えつつ集中しやすい環境を提供します。また、スタッフの立ち位置や座る位置を工夫し、お子さまが見通しを持ちやすい状況を作ることが求められます。さらに、運動専用の部屋を設けることで、動きやすくリラックスできる場を提供することが効果的です。
2. 学習面でのサポート
学習面では、お子さまの特性や能力に応じた方法を取り入れながら支援をしていきます。。AIAI VISITで提供するIQパズルや微細運動プログラムといった学習プログラムは、認知機能や手先の器用さを段階的に伸ばす取り組みが行われます。ASD特性を持つお子さまは興味の範囲が狭いことがあるため、その子が興味を持つ教材をちょうどよい難易度で提供していきます。
3. 運動面でのサポート
運動を通じた支援では、感覚統合や社会性の向上も目指します。その子の発達に合わせた運動プログラムを取り入れることで、楽しみながら運動能力を向上させます。運動の支援では粗大運動を通じた体幹の強化や姿勢保持力の向上も図り、学習における集中力にも繋げていきます。また、集団行動を含む活動を取り入れることで、他の子どもたちとの関係の中で社会性を育むことが可能です。
4. 生活習慣の確立
生活習慣を整える支援は、日常生活の質を高める上で欠かせません。また、時計やカレンダーを用いた活動を通じて時間の流れを理解し、時間感覚を身につけることも大切です。基本的な生活習慣が定着し、日々の生活における困りごとを減らすことができます。
5. 感情コントロールの支援
感情のコントロールを支援することで、お子さまが自分や周囲との折り合いをつける力を育むことができます。ASD傾向の子はあらかじめこれからのことを具体的に伝えるなど、予測可能な状況を作ると安心しやすくなります。チャレンジしたいと思える難易度の課題を与えて達成感を得られるよう、段階的な課題を設定すると、無理のない範囲での成功体験を積み重ね、自信を育むことができます。さらに、「折り合いをつける」力を養うことで、柔軟な対応力や問題解決能力を身につけていきます。
まとめ
ASDは生まれつきの特性であり、育て方やしつけが原因ではありません。
幼いころは興味の範囲が狭いと思われたことでも、適切な支援により専門性という強みに変わることがあります。
個人の持つ特性への正しい理解と適切な支援を行うことで、お子さまが安心して成長できる環境を整えることができます。また、ASDの特性を持つお子さまとの接し方では、抽象的な表現を使わずに具体的な内容で声掛けをするなど細かな気遣いが重要となります。
AIAI VISITでは、集団生活中の一人ひとりのお子さまが周囲との関わりの中でのびやかに成長できるようサポートしていきますので、気になることについて、どんなことでもお気軽にお問合せください。