広汎性発達障害(PDD)の特性とは?子どもによく見られる困りごとや大人からのコミュニケーション方法について解説!
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広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、言葉を使ったコミュニケーションや人との関わりに苦手さがある、特定のことについて強いこだわりを持つ、といった特性がある5つの疾病のグループの総称でした。そのなかの自閉的特徴を持つ疾患は、現在の診断基準では、「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名になっています。
この記事では、広汎性発達障害(PDD)の特性や診断基準を解説するとともに、関わる大人がどのような支援や配慮ができるのかを説明します。
広汎性発達障害(PDD)とは
広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、対人関係の困難、パターン化した行動や強いこだわりの症状がみられる発達障害のグループのことを指します。現在の診断基準では、この名称は使用されていません。
自閉スペクトラム症(ASD)と、どう違うの?
以前は「広汎性発達障害」という診断名が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では自閉的特徴を持つ疾患は包括され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「ASD(自閉スペクトラム症)」という診断名になりました。
つまり「自閉スペクトラム症(ASD)」と「広汎性発達障害」は、その特性や診断方法について同じ部分が多くあります。行政や医療機関によっては「広汎性発達障害」の名称を使用している場合もあり、すでにこの名称で診断を受けている人もいます。
広汎性発達障害(PDD)の主な3つの症状・特性の表れ方
広汎性発達障害(PDD)に主に見られる症状・特性について詳しく解説します。以下の症状や特性がどのように出るのかは、子ども一人ひとりによって異なります。
① 社会性・対人関係の障害
人とのちょうど良い距離感をもって関わることに難しさがあります。例えば、人に関心がなく関わろうとしない、呼んでも反応しない、嫌なことを言われてもすべて受け入れてしまう、一方的に同じ話をし続ける、人に対して横柄な態度をとる、といった特徴があります。
そのため人間関係がうまく築けずに孤立してしまったり、適切に断ったり気持ちを伝えたりすることができずにパニックを起こしてしまうことがあります
② コミュニケーションや言葉の発達の遅れ
言葉の発達がゆっくりである場合や、会話のキャッチボールに苦手さがある場合があります。例えば相手の言ったことをそのまま繰り返すオウム返しが多い、状況や気持ちをうまく言葉で説明できない、一方的に話を続ける、相手の問いかけに応答しない、といったことです。また、言葉の裏にある皮肉や冗談、抽象的な言葉の意味や文脈を理解することが苦手である場合もあります。
上記のような特徴から、人との関わりや友達との遊びの場面で困りごとが生じやすいです。
③ 行動と興味の偏り
ある特定のモノに強い興味やこだわりを見せることがあります。
例えば、予定の変更や初めての場所に苦痛を感じる、食事へのこだわりが激しい、同じルーティンをくりかえすことにこだわりがある、特定のものに固執する、といったことがあります。
集団生活において自分のこだわりを通せないとき、急な予定変更や新しいことを始めるときなどに苦痛を感じやすく、パニックを起こすことがあります。
広汎性発達障害(PDD)のその他の症状・特性の表れ方
現在は自閉スペクトラム症(ASD)と診断名が統合されていますが、以前の診断基準において、広汎性発達障害(PDD)のなかに含まれていた障害があります。それらについて、簡単に説明します。
① アスペルガー症候群
広汎性発達障害(PDD)の特徴があり、ことばの遅れや知的障害が伴わない場合を指します。話好きだったり難しい言葉を使ったりするのでコミュニケーションは成立しているように見えますが、一方的に話し続けたり相手の気持ちを察することができずに不快にさせたりすることで、トラブルへとつながることがあります。
② 特定不能の広汎性発達障害
広汎性発達障害(PDD)の特徴があり、自閉症、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害に当てはまらず統合失調症、失調型パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害などの基準を満たさない場合に診断されていました。
③ レット症候群
ほぼ女児のみに発生する、まれな遺伝性の神経発達障害です。男児にもまれに発生します。生後6カ月間正常な発達がみられた後、発達に異常が現れます。対人関係の障害、言語能力の欠如、手の反復動作などがみられます。
④ 小児期崩壊性障害
2歳頃まではコミュニケーションや適応行動において発達的な遅れがみられなかったのに、突然、成長の過程で覚えた言葉や排泄能力などを失い、対人関係や社会的コミュニケーションの困難や、特定のものや行動における反復性やこだわりといった特性が見られます。
年齢別・広汎性発達障害(PDD)の子どもによく見られる特性
広汎性発達障害(PDD)の子どもによく見られる特性を、年齢別に紹介します。このなかでどの特性がどのように出るのかは、子ども一人ひとり異なります。子どもの発達について気になる点がある場合は、一度専門の医療機関での診断を受けてみることが大切です。
乳児期(0歳〜1歳)でよく見られる特性
親への愛着行動が乏しいのがひとつの特性として見られます。例えば、母親と目を合わさない、あやされても喜ばない、欲しいものを要求するときに「取って」というかわりに大人の手をとって対象物まで持っていく「クレーン現象」と呼ばれる動作が出る、などがあります。
ただし、言語・認知・学習といった発達領域が未発達な乳幼児期の場合、発達障害の特徴となる症状がわかりにくいことが多いです。そのため、生後すぐに広汎性発達障害(PDD)という診断が出ることはありません。
保育園・幼稚園(2〜5歳)でよく見られる特性
保育園や幼稚園での集団生活や同年代の子どもとの関わりで、以下のような特性がよく見られます。
⚫︎周囲にあまり興味を持たない
他の人と視線を合わせない、他の子どもに興味をもたない、名前を呼んでも振り返らない、といった状態が見られることが多いといわれています。
⚫︎会話のキャッチボールが苦手
知的障害を伴う場合は、言葉の遅れや、オウム返し(言われたことをそのまま返す)などの特徴がみられます。また、会話において、一方的に自分のことを話したり相手からの問いかけに答えない、などの特徴もあります。
⚫︎こだわりの強さ
強い興味を持つことについて何度も同じ話や質問をすることが多いです。また、毎日のルーティンや取り組む手順にこだわりがあり、急な予定変更や新しいことについては固まってしまったりパニックを起こしたりする場合もあります。
小学校(6歳〜12歳)でよく見られる特性
小学校での集団生活や学習、人間関係において、以下のような特性が現れやすくなります。
⚫︎一方的なコミュニケーションが多い
周囲にあまり配慮せずに自分のやりたいことをしたり、相手の様子を気にせず一方的に話し続けたりするため、友人との人間関係をうまく築けないことがあります。
⚫︎臨機応変に対応するのが苦手
きちんと決められたルールを好む子が多いです。言われたことを場面に応じて対応させたり、急なルール変更や予定変更にうまく対応できないことがあります。
⚫︎言葉での説明が苦手
自分の気持ちや状況を言葉で説明することが苦手で、周囲から誤解を受けたりトラブルの原因になることがあります。
中学校・高校生(13歳〜18歳)でよく見られる特性
中学生以降の思春期では、以下の様な特徴が現れやすくなります。
⚫︎人の気持ちや感情を読み取るのが苦手
コミュニケーションに苦手さがあり、人が何を考えているのかを考えたり言葉の裏にある皮肉や冗談を理解することも苦手な傾向にあります。また、相手の言った言葉の意図を別のほうにとらえてしまい、思い込みからトラブルになることもあります。
⚫︎周囲の人との会話に馴染めないことがある
特に目的のない雑談や、前後の文脈をふまえての会話にうまく入れないことがあります。自分のペースで一方的に話し続けてしまい、友人とのコミュニケーションに悩むことがあります。
⚫︎興味のあるものにとことん没頭する
興味のあることにとことん没頭し、ある分野についての知識を豊富に持つことや、大きな成果をあげられることもあります。
広汎性発達障害(PDD)の診断基準と治療法
広汎性発達障害(PDD)の診断基準と治療法について簡単に解説します。
広汎性発達障害(PDD)の診断基準
現在の診断基準では、広汎性発達障害(PDD)という診断名が自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)に変更になっています。ここでは、DSM-5における自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)の診断基準を紹介します。
DSM-5における自閉症スペクトラム(ASD:Autism Spectrum Disorder)の診断基準
以下のA、B、C、Dを満たしていること。
A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害(以下の3点で示される)
- 社会的・情緒的な相互関係の障害。
- 他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの障害。
- 年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害。
B:限定された反復する様式の行動、興味、活動(以下の2点以上の特徴で示される)
- 常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方。
- 同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン。
- 集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある。
- 感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心。
C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある。
D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。
(DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル より引用)
ただし、自己判断するのではなく必ず医療機関での診断を受けてください。
子どもの発達障害の診断は、発達障害の専門外来がある小児科、脳神経小児科、児童精神科などで行われることが多いです。医師の診断を受けていなくても、子育て支援センターや保健センター、児童発達支援事業所や発達障害者支援センターなど地域の専門機関で相談することができます。
広汎性発達障害(PDD)の治療法
広汎性発達障害(PDD)の特性は、病気ではなく、生まれ持った特性に近いものです。特性を受け入れたうえで、その子の困りごとを和らげるために必要な支援をする必要があります。
例えば対人関係の困りごとを和らげるための「ソーシャルスキルトレーニング」や、人の行動は個人と環境との相互作用によって生じると考える理論「ABA(エービーエー、応用行動分析)」をベースにした支援などがあります。こうした支援は、児童発達支援事業や放課後等デイサービス、保育所等訪問支援などの福祉サービスを使って受けることができます。
広汎性発達障害(PDD)がある子どものなかには、てんかん発作やパニック症状がある場合もあります。これらの症状を緩和するために薬物療法が選択されることもありますが、薬は一時的なもので、障害を根本的に治療するものではありません。
薬には副作用が出ることもあります。薬の使用は必ず医師の指示を守りながら使うようにしましょう。
広汎性発達障害(PDD)の特性がある子どもとの接し方のポイント
広汎性発達障害(PDD)のある子どもとの接し方・コミュニケーション方法のポイントについて解説します。それぞれの特性を理解したうえで、必要な配慮を考えられると良いでしょう。
① 言葉は短い言葉で、ゆっくりと、具体的に伝える
長い説明や抽象的な伝え方は、理解できないことがあります。例えば部屋を片付けてほしいときなどは、「〇〇をあの棚に戻してきて」などと具体的に伝えることですぐに理解して動くことができます。
②「してほしいこと」や「見通し」を視覚的に伝える
口頭で話して伝わらないときは、写真やイラストを使って視覚的に伝えると良いでしょう。例えばその日のスケジュールを時間を示す時計のイラストや、行く予定の場所の写真などを使って見せると、見通しをもって安心して動くことができます。
③ 興味・関心の対象を広げるような学び方を行う
こだわりが強く特定のことを深く究めていくのは広汎性発達障害(PDD)のある子どもの強みでもありますが、一方で興味や関心を広げるような働き方を大人からしていけると良いでしょう。例えば、電車が大好きな子どもに地図や駅名の漢字の読み方を教えるなど、その子の好きなことからさらに興味関心を広げることもできます。
④「感覚」の違いに配慮して、取り組みやすい環境を準備する
広汎性発達障害(PDD)のある子どものなかには、光や音などをはじめとする特定の刺激に対する反応が低くなる「感覚鈍麻」や、逆に、特定の刺激を過剰に受け取る「感覚過敏」がある子もいます。
大きな音が苦手な子に配慮してヘッドホンの着用を認めたり、視覚に入ってくるものが少なく集中できるスペースをつくったりすることで、取り組みやすい環境を用意できます。
⑤「できた」時にはしっかり褒めてやる気を促す
広汎性発達障害(PDD)のある子どものなかには、他の人と同じようにできなくて自信をなくしたり、コミュニケーションがうまくいかずに孤独を感じたりする子もいます。何かができたときにはしっかりほめることで、自分に自信をもち、また次のことに挑戦してみようと思いやすくなります。
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児童発達支援事業と放課後等デイサービス事業の多機能型施設である「AIAI PLUS」は、広汎性発達障害(PDD)をはじめとする発達障害のあるお子さま一人ひとりの特性や保護者の方の要望を踏まえながら、最適なサポートを実施しています。
例えば会話のキャッチボールが苦手なお子さまには、オノマトペやカウントを使った掛け声、簡潔な説明・お手本、視覚支援等の支援を行っています。簡単な指示を聞いたり、質問に答えることで、ゲームや人とのやり取り、課題を達成する楽しさに気づくことができます。
詳しくは以下のリンクより、確認してみてください。
まとめ
広汎性発達障害(PDD)という診断名は、現在の診断基準では使用されていませんが、あえて説明をしました。言葉を使ったコミュニケーションや人との関わりに苦手さがある、特定のことについて強いこだわりを持つ、といった特性があります。人との関わりかたを学ぶソーシャルスキルトレーニングを受けたり、その子が学びやすい環境になるよう配慮を受けたりすることで、困りごとを減らし自信を持って日常生活を送ることができます。
困りごとを感じる場面があれば、児童発達支援事業や放課後等デイサービスなどを利用して専門家の支援を受けることを検討してみてください。