学習障害(LD)とは?原因から特性に合わせた支援方法までくわしく解説
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学習障害(LD)は、知的能力に問題がないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」など特定の学習分野で困難を抱える状態を指します。このコラムでは、学習障害の原因や特徴、タイプ別の支援方法、さらに子どもとの接し方のポイントをわかりやすく解説します。
学習障害(LD)の基本知識と特徴
学習障害(Learning Disability: LD)は医学的には「SLD(限局性学習症)」と言われており、知的発達には問題がないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」などの特定の学習能力において、顕著な困難を示す状態を指します。このような困難は、子ども一人ひとりの特性として現れるため、その程度や内容もさまざまです。知的能力は正常であるにもかかわらず、特定の分野で極端に苦手意識を感じたり、習得が遅れることがあります。
学習障害は学校生活や日常生活において、本人が自信を持ちにくい状況を引き起こすこともありますが、適切な支援を受けることで、得意な分野を伸ばしつつ、苦手な部分を補うことが可能です。例えば、読むことが難しい子どもでも、音声教材や補助的なツールを活用することで学びを深めることができます。
一方で、それ以外の部分では高い能力を発揮する場合もあります。そのため、特性に焦点を当て、一人ひとりに合ったサポートにより、苦手を補いながら得意を伸ばす支援が重要です。
学習障害(LD)の本当の原因とよくある誤解
学習障害の原因については、現時点で完全には解明されていませんが、学習障害の背景には、生まれつきの脳の情報処理特性が関係していると考えられています。視覚や聴覚といった感覚そのものではなく、これらの情報を脳が処理する際に特有の特徴が現れることで、学習の過程に困難が生じる場合があります。
親御さんとしては「もっと自分ができることがあったのでは」と感じることがあるかもしれませんが、自分を責める必要はありません。脳の特性によるものなので、専門家と連携して子どもの特性に合った支援を考えることが大切です。
学習障害の原因を知るうえで最も重要なのは、学習障害は環境的な要因や育て方が直接の原因ではないということです。自分の関わり方が子どもの学習障害を引き起こしているのではないかと不安に感じることもあるかもしれませんが、そうした誤解を解くことが重要です。子ども一人ひとりの特性を理解し、その特性に合ったサポートを行うことで、子どもがその可能性を最大限に伸ばす手助けをすることができます。
学習障害(LD)の診断基準
学習障害の診断は、子どもの学びに対する困難さを正確に把握し、適切な支援を行う第一歩です。ここでは、DSM-5に基づく診断基準とその重要なポイントを詳しく解説します。診断の理解を深めることで、子ども一人ひとりに合った対応策を見つけやすくなります。
DSM-5における学習障害(限局性学習症)の診断基準は以下の通りです
主な診断基準
以下の症状のうち少なくとも1つが6か月以上継続していること
- 読字の困難:単語を間違えたり、ゆっくり音読したり、言葉をあてずっぽうに言うことがある。
- 文章の理解困難:文章を読めても、その意味や関係性を理解することが難しい。
- 綴字の誤り:文字の追加、脱落、置換などの誤りが生じる。
- 文章作成の困難:文法や句読点に複数の間違いが見られる。
- 計算や数字の概念の困難:指折り数えるなど基本的な計算に困難を感じる。
- 数学的問題解決の困難:数学的概念や方法を問題解決に適用することが非常に難しい。
診断の重要なポイント
- 知的能力に問題がない:IQ70以上であること。
- 学業的技能の著しい遅れ:知的能力では説明できないほど低い学業技能。
- 他の要因によらない:視力、聴力、他の精神疾患では説明できないこと。
診断プロセス
診断には、以下のような複合的なアプローチが用いられます
- 詳細な問診
- 心理検査
- 認知能力検査
- 読字・書字・計算能力の評価
- 必要に応じてCTやMRIによる画像検査
- 身体機能検査
学習障害(LD)は年齢や発達段階に応じて異なる困りごとが現れます。適切な診断と対応を行うことで、子どもの特性に合った支援が可能になります。
学習障害(LD)3つのタイプとそれぞれの特性
学習障害(LD)は、読字障害、書字表出障害、算数障害の3つのタイプに分けられ、それぞれに特有の困難があります。以下では、それぞれの特徴や現れ方を具体的に解説します。
① 読字障害(ディスレクシア)
読字障害は、文字を読むことに特異的な困難を示す学習障害です。子どもは文字を正確に読むことが難しく、音読する際にたどたどしく、文字や単語を間違えやすい特徴があります。
具体的な特徴
- 文字を一字ずつ拾って読む(逐次読み)
- 文字や行の読み飛ばしや不正確な読み方をする
- 文章を読むとすぐに疲れてしまう
- 文字の形や音の認識が難しい
② 書字表出障害(ディスグラフィア)
書字表出障害は、文字を書くことに特異的な困難を示す学習障害です。子どもは文字のバランスを取ることや、正確に文字を書くことに苦労します。
具体的な特徴
- 鏡文字や不正確な文字を書く
- 似ている文字を間違えて書く
- 小さな文字(「っ」「ゃ」「ょ」)の書き方に困難がある
- 文字の形や位置を正確に書くことが難しい
③ 算数障害(ディスカリキュリア)
算数障害は、数字の概念や計算に関する特定の学習困難を示す学習障害です。子どもは数字の感覚をつかむことが難しく、数値を覚えることが極端に苦手です。
具体的な特徴
- 数の大小や計算式を立てることに困難を感じる
- 数字の感覚がつかめず計算を覚えにくい
- 読み書きには問題がないが計算や推論が著しく難しい
学習障害と併発しやすい発達障害
学習障害(LD)は、他の発達障害と併発することが多く、診断や支援が複雑になる場合があります。この章では、併発しやすい発達障害の特徴と、診断やサポートが難しい理由について詳しく解説します。
併発しやすい発達障害の特徴
学習障害(LD)は、以下の発達障害と高い確率で併発することが知られています
- ADHD(注意欠如・多動症): 集中力や注意の持続が難しく、衝動的な行動が見られる。
- 自閉スペクトラム症(ASD): コミュニケーションや対人関係に課題を抱え、特定の興味や行動パターンがある。
これらの障害が併発すると、それぞれの特性が絡み合い、子どもの学習や日常生活に多様な困難をもたらします。
診断が難しい主な理由
学習障害と他の発達障害が併発している場合、診断が難しい場合があります。
複数の障害の特徴が混在し、どの特性がどの障害に起因するのかを明確にするのは難しく、また年齢と共に発現する特徴が変わることもあります。ADHDの子どもの30〜40%がSLD(限局性学習症)を併存するとも言われています。
例えば、ADHDの多動症的特徴が強いと思われていたが、学習障害の読字障害で授業に集中できなかったことも複合的に起因しており、読字障害に対するサポートで緩和するというようなこともありえます。
併発する発達障害の特性に対応するには、個別の対応が不可欠です。ADHDやASDでは特性に応じた支援方法が異なるため、柔軟な支援計画が求められます。また、同じ診断名でも一人ひとり特性が異なるため、専門家でも理解に時間がかかることがあります。
重要な対応ポイント
子ども一人ひとりの特性に寄り添った支援を行うために、以下のポイントを意識することが重要です
- 早期の専門的な診断: 専門家による早期診断で、特性を正確に把握することが重要です。
- 個々の特性に合わせた支援: 子どもの特性に応じた柔軟な支援計画を立てることが必要です。
- 保護者、学校、専門機関の連携: チームで情報を共有し、一貫性のあるサポートを行うことが効果的です。
実際の支援においては、特性と環境が複雑に絡み合うことを考慮し、個人に向けたカスタマイズで支援を行うことが重要です。また、療育サービスを活用して個人に合ったプログラムを取り入れることで、より効果的なサポートが期待できます。
年齢別に見られる学習障害(LD)の困りごと
学習障害(LD)は、年齢や発達段階に応じて特有の困りごとが現れる場合があります。それぞれの段階で表れる特性を理解することで、子どもが抱える課題を早期に把握し、適切な対応を行うことが可能になります。保育園や幼稚園、小学校、中学校・高校といった成長の各ステージで異なる形で課題が現れるため、年齢に応じたアプローチが求められます。
学習障害の特徴に当てはまるところがあっても それが見られたからと言って、学習障害であるとは限りませんので、心配がある場合には専門機関や医療機関でご相談してみてください。
AIAI VISITでも相談を受け付けておりますので、気になることがございましたらお気軽にお問合せください。
以下では、各段階でよく見られる特徴を具体的に解説します。
保育園・幼稚園(2〜5歳)で気づく学習障害の初期サイン
保育園や幼稚園の年齢では、学習障害の特性がまだはっきりとは表れないことが多いです。ただし、子どもの発達を見守る中で、学習面や動作面におけるわずかな違いに気付くことがあるかもしれません。こうした早期の兆候に気づくことで、適切な支援を考えるきっかけを得ることができます。
主な困りごと
- 言葉や文字を覚えるのが周囲より遅い
- 折り紙や積み木などの手先の作業が苦手
- 身体の使い方がぎこちない
- 他の子どもと比べて、言語発達に遅れがある
これらは必ずしも学習障害を意味するわけではありませんが、注意深く観察することが大切です。
小学校(6歳〜12歳)でよく見られる学習障害の特徴
小学校の時期には、学習障害の特性が次第に明確になり、学業や日常生活において困りごととして表れる場合があります。この時期は読み書きや計算といった基本的な学習が進むため、特性が目立ちやすくなるのが特徴です。早期に気づき、適切な支援を行うことで、子どもが自信を失わずに学びを続ける環境を整えることができます。
主な困りごと
- 文字を正確に読むことが難しい
- 文章を読むのがぎこちない
- 鏡文字を書いてしまう
- 板書が苦手
- 数を正確に数えられない
- 時計の読み方が分からない
- 計算が苦手
- 筆算の数字がずれてしまう
この時期は学業面での困難が目立ちやすくなるため、学校などでのサポートが重要となります。
中学校・高校生(13歳〜18歳)でよく見られる学習障害の課題
中学生や高校生の時期には、学習障害の特性がより複雑化し、学業や日常生活において大きな影響を及ぼすことがあります。この年代では学習の内容が高度化するため、特定の分野での苦手意識や困難が顕著になりがちです。また、学習障害を隠そうとする行動や、それに伴うストレスが見られることも少なくありません。
主な困りごと
- 特定の科目のみ極端に成績が低い
- 英単語の暗記が非常に困難
- 長文読解が苦手
- 作文や小論文を書くことに大きな困難を感じる
- 文法や句読点の使い方に誤りが目立つ
- 文章問題の理解が難しい
この年代では学習障害を隠そうとしたり、ストレスを抱えることもありますので、周囲の理解が重要です。
学習障害(LD)のタイプ別支援方法
学習障害を持つ子どもへの支援は、単に困難を補うだけでなく、子どもの自信を高めることが重要です。以下に、各タイプの学習障害に応じた支援方法についてさらに深く解説します。家庭や学校で活用できる具体的な方法を挙げ、子どもたちの成長を支えるヒントを提供します。
① 読字障害(ディスクレシア)のお子さまへの支援実例
読字障害の子どもは、文字を読むことに特別な困難を抱えています。主な特徴は、文字がにじんだり、歪んで見えたり、鏡文字のように認識したりすることです。このような場合、音声教材の活用や文字を大きくした資料の使用が効果的です。また、読む部分を明確にする工夫を取り入れることで、子どもの負担を軽減することができます。
支援方法
- 文字のフォントを大きく、わかりやすくする
- 余分な文字を隠し、読む部分を明確にする
- 音声で学習する(電子教科書の活用)
- スマートフォンやタブレットの読み上げ機能を活用する
- 文の区切りに印をつける
② 書字表出障害(ディスグラフィア)のお子さまへの支援実例
書字障害の子どもは、文字を書くことに著しい困難を示します。黒板の文字をノートに写すことや、文字のバランスを取ることが難しいです。このような場合、握りやすい筆記具やタブレットでのノートテイクを活用することで、書く負担を軽減できます。また、板書の写真を撮る許可や、必要に応じた代筆の提案も効果的です。
効果的な支援方法
- 三角鉛筆など、握りやすい筆記具を使用
- パソコンやタブレットでのノートテイク
- 板書の写真撮影を許可
- 文字を書く時間の延長
- 必要に応じて代筆や口頭での回答を認める
③ 算数障害(ディスカリキュリア)のお子さまへの支援実例
算数障害の子どもは、数の概念や計算に特別な困難を感じます。数を数えることはできても、数の概念を理解するのが難しいです。このような場合、視覚的に理解できる教材やブロックを使用して、具体的に教える方法が効果的です。また、日常生活で数を使う体験を増やすことも、理解を深める助けになります。
支援のポイント
- 数の概念を視覚的に理解できる教材の活用
- ブロックやカードなどを使った具体的な教示
- 日常生活での数の体験(お菓子を分ける、レシートの確認など)
- ゆっくりと段階的なアプローチ
どの障害においても、子どもの個性を尊重し、得意なことを伸ばしながら支援することが最も大切です。
学習障害(LD)の特性がある子どもとの接し方のポイント
学習障害を持つ子どもへの接し方では、その特性を理解し、柔軟にサポートすることが大切です。このセクションでは、子どもが自信を持って学びに取り組める環境を整えるための具体的な方法を解説します。子ども一人ひとりの特性に寄り添い、適切な支援を提供することで、成長と可能性を引き出すサポートが可能です。
① 子どもの特性を理解し、できないことを責めない
学習障害のある子どもは、やる気がないわけではなく、脳の特性により特定の学習に困難を抱えています。子どもが一生懸命頑張っているにもかかわらず、できないことを責めることは避けなければなりません。
重要なのは、子どもの「個性」を理解し、その特性に寄り添うことです。「なぜできないの?」「もっと頑張れ!」といった言葉は、子どもの自尊心を傷つけ、学習への意欲を削いでしまう可能性があります。
② できたことがあれば褒めて、自己肯定感を育む
子どもの得意な分野や、少しでもできたことは積極的に褒めることが大切です。褒める際は、具体的に何が良かったかを伝えることが重要です。
例えば、「○○が上手にできたね」「こういうところが素晴らしいよ」と具体的に伝えることで、子どもは達成感を感じ、学習への意欲を高めることができます。また、褒める際はその場ですぐに行うことで、より効果的に伝わります。
③ 特性に合ったツールを導入する
学習障害のある子どもには、その特性に合わせた学習支援ツールが有効です。
具体例
- 音声読み上げソフト
- 文字を大きくしたプリント
- フリガナ付きの教材
- デジタルカメラやタブレットの活用
これらのツールを使用することで、子どもの学習をサポートし、自主的に学ぶ意欲を引き出すことができます。
④ 学校などで合理的配慮を受ける
合理的配慮とは、障害のある子どもが障害のない子どもと同じように教育を受けるために、学校が必要な調整を行うことです。学習障害を持たない子どもたちと同じように教育を受けるために行われる調整や変更のことで、学校側でも無理のない範囲で行ってもらえるよう、文部科学省からも推奨されています。
具体例
- テストの別室受験
- テスト時間の延長
- 学習支援機器(タブレットなど)の使用許可
- 成功体験を増やす活動の提供
- 相談や休憩できる場所の確保
合理的配慮を受けるためには、担任や学年主任、スクールカウンセラーと相談し、子どもに必要な配慮を具体的に検討することが大切です。
まとめ
学習障害(LD)を持つ子どもたちは、それぞれ独自の特性を持ちながら学びに困難を感じる場合があります。本コラムでは、学習障害の基本知識から原因、タイプ別の特性や支援方法、さらに接し方のポイントまでを解説しました。学習障害は育て方の問題ではなく、脳の特性によるものであり、早期に特性を理解し適切な支援を行うことで、子どもが自信を持って成長することが可能です。
学習障害の療育で重要なことは、特性に合わせた柔軟な支援やできたことを具体的に褒めることでの自己肯定感の育成などが挙げられます。子ども一人ひとりに寄り添い、得意分野を伸ばしながら困難をサポートすることで、可能性を最大限に引き出すことが重要です。