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軽度知的障害・グレーゾーン・境界知能の違いとは?特徴や家庭でできる支援方法も解説

COLUMN

はじめに

子どもの発達について気になっている保護者のなかには、「軽度知的障害」「グレーゾーン」「境界知能」の違いがわからない、自分の子どもが上記のうちどれに該当するのかわからないという方がいるかもしれません。この記事では「軽度知的障害」「グレーゾーン」「境界知能」それぞれの違いや特徴を理解し、受けられる支援や相談先についても紹介します。


軽度知的障害・グレーゾーン・境界知能の基本的な意味と違い

用語定義の概要IQの目安診断の有無
軽度知的障害知的機能と日常生活能力の両方に困難がある状態約50〜70医師の診断あり
グレーゾーン知的障害や発達障害の診断はないが、発達に偏りや課題が見られる状態個人差あり原則なし(医学的な診断名がない)
境界知能平均よりやや低い知的機能だが、知的障害とは診断されない知能域約70〜84診断がつかないことが多い

「軽度知的障害」とは知的障害の基準のうち「軽度」に該当することを指し、医師により「知的障害」という診断名がつきます。IQの数値だけでなく、「日常生活にどの程度支障があるか」も重要な診断基準です。

一方で「グレーゾーン」や「境界知能」は、知的障害や発達障害といった診断名はつかないものの、生活するうえで見えづらい困難さがある状態をいいます。

保育園・幼稚園や小学校などで子どもに「集団行動が苦手」「勉強の遅れがある」といった困りごとがある場合、軽度知的障害・グレーゾーン・境界知能のどれに当てはまるのか判断しづらいことがあります。

「特定の障害の診断がつかないなら大丈夫」と感じる保護者もいれば、「診断がつかないことで、困りごとがあるのに適切な支援が受けられない」と悩む保護者もいるでしょう。3つのどれかに無理に分類しようとするのではなく、その子が感じている困りごとを知り、その子に合った支援を見つけることが最も大切です。

軽度知的障害とは

軽度知的障害の子どもの特徴や見られるサイン、受けられる支援などについて解説します。

軽度知的障害の定義と診断基準

軽度知的障害は「知的障害」の基準のうち「軽度」に該当することをいいます。

国際的な診断基準「DSM-5」によると、IQがおおよそ50〜70程度で推論・問題解決・抽象的思考が苦手であること、日常生活や学校生活において何かしらの困難さがあること、これらの特性が18歳未満で現れていることが医学的な定義とされています。

軽度知的障害はIQの数値だけでは診断されず、生活面での困難さがあるかどうかも大きな診断要素となります。診断には、医師・心理士による知能検査・発達検査が必要です。

軽度知的障害の主な特徴

軽度知的障害の場合、食事やトイレ・着替えといった自分の身の回りのことは、年齢に応じてほとんど自立して行うことができます。家事や買い物も、習得すればひとりでできるようになることが多いです。

一方で、推論や抽象的思考が苦手なので、学習面やコミュニケーション面で困りごとが出てくることがあります。例えば複雑な文章の理解や計算が苦手で学習面に遅れが出る、その場の空気を読むことや抽象的な会話の内容を理解することが苦手でコミュニケーションをスムーズに行えない、段取りや見通しをたてることが苦手で日常生活に困りごとが出る、などがあります。

年齢別・軽度知的障害の子どもに見られるサイン

軽度知的障害の子どもに見られるサインを、年齢別に紹介します。

3歳〜5歳の幼児期には、言葉の遅れが見られます。例えば、2語文・3語文を使った会話や指差しによるコミュニケーションなど、月齢相応の発達と比べるとゆっくりである場合が多いです。他にも、指示が伝わりづらい、会話のキャッチボールができない、ごっこ遊びが成立しない、といったサインが見られ、同年代と遊ぶのが苦手で大人と一緒に遊びたがる傾向もあります。

小学校低学年の時期には、読み書き計算など学習面でのつまずきを感じるようになります。集団生活において順番を守れない、話を聞けない、感情のコントロールができないなどの困りごとにより、友達とのトラブルが多くなる傾向もあります。物の管理や整理整頓が苦手で、忘れ物やなくしものが多いケースもあります。

小学校高学年〜中学生の時期には、同年代の友達とのコミュニケーションも高度な内容が増えてきます。暗黙の了解や抽象的な会話の内容が理解できず、友達とのトラブルが増えたり、からかいの対象になったりする場合があります。金銭管理や物の管理が苦手でトラブルにつながることや、学習面の遅れが目立つこともあり、周囲との差に本人が気がついて自信を失いやすい傾向もあります。適切な配慮や支援を受けられない場合、うつや適応障害など二次障害につながるリスクもあります。

軽度知的障害の子どもが受けられる支援

軽度知的障害の子どもが受けられるさまざまな支援があります。

学校教育で受けられる支援として、特別支援学級への在籍や通級指導があります。特別支援学級では、普通級と比べると少人数で個別の支援を受けながら学習することができます。通級指導を利用すると、普通級に在籍しつつ、週に数時間、必要な一部の授業のみ支援級に通って支援を受けながら学ぶことができます。ほかにも、地域の小学校ではなく特別支援学校に通うことで、個別に手厚い支援を受けながら学ぶこともできます。

医療や福祉の支援として、児童発達支援や放課後等デイサービス、保育所等訪問、障害児入所支援などがあります。児童発達支援では未就学、放課後等デイサービスでは就学以上の子どもが、特性や困りごとにあわせた支援を受けることができます。保育所等訪問は、園や小学校など子どもが通う施設に支援員が訪問して必要な支援を行う福祉サービスです。ほかにも、地域の発達支援センターや保健所などでも相談することが可能です。

将来的には就労に向けた支援として、高等特別支援学校や就労移行支援、就労継続支援B型などがあります。本人の特性や得意・不得意を理解したうえで、必要な配慮が受けられる職場環境や本人にマッチングする職種を選ぶことが大切です。

軽度知的障害の子どもとの接し方

軽度知的障害の子どもに接するときは、指示や説明はなるべく短く具体的にすることを心がけましょう。タイマーやスケジュール表、絵カードなどを使って予定や時間を「見える化」する工夫も助けになります。家庭で手伝いを頼むときなども、できることをひとつずつお願いすることで、成功体験を積み重ねやすくなります。

考え方のポイントは、「なぜできないの?」と責めるよりも「どうしたらできるか?」を一緒に考えることです。同じ失敗を繰り返すときは、失敗の原因を考え、フォローできる仕組みを工夫してみると良いでしょう。

うまくいかないことが続くと、保護者が子どもや自分自身を責めてしまうこともあるかもしれません。自分だけで何とかしようとするのではなく、学校や地域、福祉の相談先や支援者と連携をとり、相談できる場所をつくってください。保護者自身のケアも大切です。

グレーゾーンとは

グレーゾーンの子どもの特徴や見られるサイン、受けられる支援などについて解説します。

グレーゾーンの定義

「グレーゾーン」という言葉は、医学的な診断名ではありません。知的障害や発達障害の傾向が見られるものの、診断基準を満たさない状態を指す通称です。IQが知的障害の境界域(70〜85)にある、発達障害の子どもに見られる特性がある、などの特徴があり、集団生活や学校生活において困りごとが起きやすい状態です。

グレーゾーンの主な特徴

グレーゾーンの特徴は人によりさまざまですが、いくつか例を紹介します。

読み書きや計算に苦手さがある、忘れ物が多い、集中力が続きづらい、集団の場で指示を聞いても理解できずに置いていかれてしまう、遅刻やミスを何度も繰り返してしまうなど、学校生活のさまざまな場で困りごとが多くなる場合があります。
また、場の空気が読めなかったり複雑な会話を理解できなかったりすることで、友人関係でトラブルが起きやすい場合もあります。感覚過敏やこだわりなど、発達障害でよく見られる特性があることで、初めての場所や人、予定変更が苦手であるというケースもあります。

一方で、興味があることや好きなことに関しては他に類を見ないほどの集中力を発揮することもあります。

年齢別・グレーゾーンの子どもに見られるサイン

グレーゾーンの子どもに見られるサインを、年齢別に紹介します。

3歳〜5歳の幼児期には、言葉の発達や運動発達が少し遅れているように感じることがあります。また、落ち着きがなくじっとしていられない、気持ちのコントロールが苦手で癇癪をおこしやすい、ルールや順番を守れず友達とのトラブルにつながることもあります。

小学校低学年の時期には、学校生活において授業に集中できない、一斉指示を理解できずに課題をこなすことができない、忘れ物やなくしものが多いなどの困りごとが起きる場合があります。ルールの理解や言葉で気持ちを伝えることが苦手で、友人関係でトラブルが発生しやすいこともあります。

小学校高学年〜中学生の時期には、学習や生活の困りごとに大して適切な支援や配慮を受けることができずに進級してしまい、つまずきが大きくなる傾向があります。周囲との差がはっきりすることで自信を無くす、「やる気がない」と誤解されて周囲から厳しい目を向けられるといった傾向もあり、親子関係にも影響が出やすくなります。

グレーゾーンの子どもが受けられる支援

グレーゾーンは医学的な診断名ではありませんが、困りごとや状況によってサポートが必要であれば、支援を受けられる場合があります。

学校内での困りごとについては、担任の先生のほかにも通級指導教室や特別支援コーディネーターに相談することで、必要な配慮や支援を検討できる場合があります。

地域で受けられる支援として、発達相談センター、保健所、子育て支援センターなどで相談することが可能です。診断の有無に関わらず早期からの療育や相談支援が行われている地域もあります。

また精神科や小児科、発達外来などの医療機関に相談できる場合があります。障害の診断が出なくても、カウンセリングや投薬などによるサポートを受けられることがあるので、まずは相談してみましょう。

グレーゾーンの子どもとの接し方

グレーゾーンの子どもと接する大人は、子どもの特性や苦手さを理解したうえで見守ること、具体的なサポートをすることが大切です。

グレーゾーンの子どもが何かを苦手とするのは、その特性によるものが大きいです。できないことを責めたり注意したりすることよりも、子どもが成功できるための具体的なサポートを工夫してみましょう。

例えば、指示や説明はなるべく短く具体的にすること、タイマーやスケジュール表を使って予定を「見える化」すること、不安や緊張を取り除けるように丁寧に事前の説明をすることなどを意識すると良いでしょう。

また、グレーゾーンの子どもの保護者のなかには周囲からの「できることをやってない」「甘えている」といった視線に苦しんだり、孤立したりするケースもあるかもしれません。保護者の悩みや不安のケアも大切にして、信頼できる相談先を確保してください。地域の発達相談センターや子育て支援センターはほとんどの場合、診断名の有無に関わらず相談できることが多くあります。

境界知能とは

境界知能の子どもの特徴や見られるサイン、受けられる支援などについて解説します。

境界知能の定義

境界知能(きょうかいちのう)とは、知的障害と平均的な知能の「中間」にあたる知的能力の状態を指します。医学的・心理学的な診断名ではなく、知能指数(IQ)70〜84程度の範囲のことを指すことが多いです。「知的障害の診断基準(IQ70未満)」には達しないため、知的障害とは診断されません。

一方で、知的能力の低さにより、学習・仕事・対人関係などで困難を感じやすいことが多くあります。本人や周囲が“発達に課題がある”と気づきにくく、支援につながらないケースもあります。

境界知能の主な特徴

知的障害の診断基準には達しないものの、軽度知的障害のある子どもに起きやすい困りごとが起きやすい傾向があります。面で困りごとが出てくることがあります。例えば学習内容の理解や応用に時間がかかる、言葉でのやり取りはできるが話の文脈をつかむのが苦手、段取りや見通しをたてることが苦手で日常生活に困りごとが出る、といったことがあります。周囲のペースについていけず、対人関係でのトラブルが起きやすいケースもあります。

境界知能の子どもは一見“普通”に見えるため、周囲から上記の困りごとを理解されづらいという特徴があります。

年齢別・境界知能の子どもに見られるサイン

3〜5歳の幼児期には、言葉の遅れや理解力の弱さが見られるものの会話は可能なことが多いです。また、単純なルールの遊びはできても、複雑なルールを理解できないことがあります。着替え、トイレなど年齢相応の自立行動が苦手な場合もあります。

小学校低〜中学年の時期には、学習内容が複雑になるにつれて、授業についていくのが難しくなる傾向があります。周囲との違いに本人が気づき始め、劣等感を持つこともあります。

小学校高学年〜中学生の時期には、忘れ物や時間管理の苦手さが学習に大きく影響する傾向があります。
複数の情報をまとめることや計画的に動くことが難しく、周囲の期待に応えられないことで、自尊心が低下しやすい時期でもあります。

境界知能の子どもが受けられる支援

学校内での困りごとについては、担任の先生のほかにも通級指導教室や特別支援コーディネーターに相談することで、必要な配慮や支援を検討できる場合があります。

境界知能のある子どもに対する医療・福祉の直接的支援制度はないものの、学習障害(LD)や発達障害(ADHDなど)を併存している場合には、福祉サービスを利用できることがあります。

将来的に就労に向けての支援として、就労移行支援や職業訓練施設を利用できる場合があります。得意分野を伸ばしたり、自分の得意不得意を把握してマッチする職場環境を選んだりするために利用を検討すると良いでしょう。

境界知能の子どもとの接し方

境界知能の子どもと接するときは、「覚えが悪い」「要領が悪い」などと責めるのではなく、段階的に丁寧に教えることを心がけましょう。成功体験を積み重ねることで自分に自信をつけていくことが大切です。また、指示は短くわかりやすく、何かを伝えるときには図や箇条書き、スケジュール表など視覚的にわかりやすく情報を整理して提示するようにしましょう。

子どもが成功しやすい環境を整えることも大切です。例えば本人の理解しやすい方法で学習できるように学び方を選ぶこと、家庭での手伝いなどもできる範囲から任せていくことがあげられます。失敗しても再チャレンジできるよう、安心感につながる声掛けを心がけてみてください。

支援制度が届きにくく、周りから誤解されることも多いかもしれません。子どもが自分を生かしやすい環境を選ぶこと、信頼できる相談先を見つけることが、本人や家族の大きな支えとなります。

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まとめ

軽度知的障害・グレーゾーン・境界知能は、受けられる支援が異なる一方で、重なる特徴や困りごとがあります。いずれにしても大切なのは、困りごととその原因を知ったうえで声掛けや必要なサポートの仕組みを工夫することです。保護者は一人で悩みを抱えず、学校や地域の支援機関に相談することを検討してみてください。

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