発達性協調運動症(DCD)の特性とは?子どもによく見られる困りごとや接し方について解説します
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発達性協調運動症(DCD)とは、子どもが手足や全身の動きをうまくコントロールできず、運動や日常動作に困難を抱える発達障害の一種です。縄跳びやボール遊び、字を書くなどの基本的な動きが苦手なことが特徴で、5~11歳の子どもの約5~6%に見られると言われています。
本記事では、DCDの原因や特性、年齢別の困りごと、診断方法、適切な支援や治療法を詳しく解説します。子どもの不器用さや日常での困難が気になる方は、ぜひDCDを正しく理解し、支援方法を見つけるヒントを見つけてくださいね。
発達性協調運動症(DCD)とは
発達性協調運動症(DCD)は、手足の動きなど身体をコントロールする「協調運動」が年齢相応に行えないため、日常生活に支障をきたす状態のことです。DCDのある子どもは、縄跳びやボール投げといった運動、または文字を書くなどの作業において、他の同年代の子どもと比べて困難を抱えやすい特徴があります。
なお、DCDの有病率は、5歳から11歳の子どもの中で約5〜6%とされており、決して珍しいものではありません。ただし、その特性は一人ひとり異なり、周囲の理解と適切なサポートが重要です。早期に特性を把握し、専門家に相談することで、子どもの成長をより良い方向に導くことが可能になるでしょう。
そもそも協調運動とは
協調運動とは、手と手、手と目、足と手といった個別の動きを同時に行い、スムーズな動作を可能にする能力のことを指します。これが十分に発達していない場合、動作がぎこちなくなったり、簡単な運動でも時間がかかったりすることがあります。
運動は大きく分けると、全身を使う「粗大運動」と、手や指先などの細かい動作を伴う「微細運動」の2つに分類されます。協調運動は、これらを組み合わせることで成立します。
例えば、縄跳びをする際には、手を回す動作(=微細運動)とジャンプする動作(=粗大運動)が必要です。また、ボールを投げたり受け取ったりする場合、目でボールの動きを追いながら(=視線の制御)、腕や手を使って動きを調整します。このように、協調運動は身体全体の連動性と自分自身の制御力が問われる活動のことを指します。
DCDのある子どもは、この協調運動が苦手なため、動作がぎこちなく見えることがあります。これが日常生活や学校活動における困難につながりやすいため、周囲のサポートが必要な場合があります。
発達性協調運動症(DCD)の原因
発達性協調運動(DCD)の原因は明確には解明されていません。ただし、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、学習障害(限局性学習症)といった他の発達障害と併存するケースが多く、これらには遺伝的な要因が関係していると考えられています。
重要なのは、DCDは「親の育て方」や「躾不足」が原因ではないという点です。親としては、子どもの特性を理解するとともに、子どもの不器用さ(よく転んだり、物にぶつかってしまったりするなど)が、ADHDによる注意散漫や衝動性が原因なのか、DCDによるものなのかなどを考える必要があります。
年齢別・発達性協調運動症(DCD)のある子どもの困りごとチェックリスト
発達性協調運動(DCD)は、赤ちゃんの頃からその特徴が見られます。ここでは、DCDの子どもの場合、どの年齢でどのような困りごとが見られるのか、チェックリスト形式で紹介します。
乳児期(0〜1歳)に見られる発達性協調運動症(DCD)の困りごと
- 飲み物や食べ物を飲み込むのが苦手、むせることが多い
- 寝返りを習得するまで時間がかかる、またはしない
- ハイハイを習得するまで時間がかかる、またはしない
- 座っている姿勢が不安定、座っている姿勢に左右差がある
- バランスを取ることが苦手で、「つかまり立ち」や「一人座り」が遅れる、または短時間しかできない
- なかなか歩けるようにならない、歩行の動きに左右差がある
- 重心が不安定、身体がだらんとしている
- おもちゃをつかむ動作が遅い、十分に握りしめることができない
- 動くものを目で追う動作が遅れたり、視線を合わせるタイミングがズレる
- 食事中にこぼすことが多い、手に持った物を正確に口に運ぶことが難しい
幼児期(2〜5歳)に見られる発達性協調運動症(DCD)の困りごと
- 手先を使った遊びが苦手(積み木、パズル、粘土遊び、塗り絵など)
- ボタンやファスナーが苦手、自分一人で着替えることが難しい
- スプーンやコップなどがうまく使えない、食事中にこぼすことが多い
- 滑舌が悪い
- 走る・跳ぶなどの動きがぎこちない、転びやすい
- 三輪車やキックボードを操作することが苦手
- 簡単な動作のもほうが難しい
- ボールを投げる・受ける動作が苦手
- バランスを取ることが難しい
- 集団遊びで行動が遅れる
学童期(6〜15歳)に見られる発達性協調運動症(DCD)の困りごと
- 手先が不器用でハサミや鉛筆をうまく使えない
- 字を書く速度が遅い、文字が読みづらい
- ボール遊びやチームスポーツでのルールや動きを理解しづらい
- 簡単な運動や日常生活の中でも転びやすい
- ボタンを留める・靴紐を結ぶなどの身支度が難しい
- 荷物を整理したり片付けたりすることが苦手
- 他者との距離感を掴みにくく、ぶつかることが多い
- 運動や遊びにスムーズに参加できないことで、友人関係を築きにくい
- 「不器用」と評価され、誤解や叱責を受けやすい
- できないことや苦手なことが多いため、ストレスや不安を感じやすい
発達性協調運動症(DCD)の診断
発達性協調運動症(DCD)の診断は、本人や保護者との面談、専門家による観察、標準化された検査などを通じて、総合的に判断されます。
DCDの診断において主に使用される診断基準は2種類あり、いずれも国際的に広く認知されています。近年、主流になりつつあるのが「DSM-5-TR(精神障害のための診断と統計マニュアル 第5版テキスト改訂版)」です。
DSM-5-TRの診断基準
- 協調運動の困難:年齢に適した動きやスムーズな動作を行うことが難しい
- 日常生活への影響:学業や余暇活動、日常的な身の回りの動作に影響が見られる
- 症状の持続性:これらの困難が幼少期から持続している
- 他の疾患では説明できない:視覚障害、脳機能生涯、神経疾患などの影響ではない
また、もう一つの診断基準が、世界保健機関(WHO)が作成した「ICD-10(国際疾病分類 第10版)」です。
ICD-10の診断基準
- 動作が不器用であること
- そのために日常生活や学業に著しい困難があること
- 他の医学的または発達的な原因を除外した上で診断が下されること
これらの診断基準に基づき、手足の動きや全身を使った運動が年齢相応に行えるかどうかを詳細に評価します。特に、協調運動が不十分であることで学業や友人関係、家庭での活動に困難を感じている場合、DCDの可能性が高いとされます。
発達性協調運動症(DCD)の支援や治療法
発達性協調運動症(DCD)は子どもが同年齢と過ごす中で劣等感や自己効力感を失いやすい点に注意が必要です。子どもが他の子に比べて器用さが足りないことで、不安になりやすいこともあり、そのために療育で子どもの得意な部分を見つけていくことが重要です。以下に、DCDに対する主な支援を紹介します。
① 微細運動
微細運動は、DCDの子どもが日常生活で必要なスキルを身につけることを目的としています。具体的な活動を通じて協調運動や手先の器用さを向上させる支援を行います。
みんなと同じように言われても道具の使い方が不器用になってしまうため、個別で微細運動を支援することでその子なりの経験の仕方により道具を使えるようになっていきます。
発達性強調運動症(DCD)は、視覚と触覚を同時に鍛えることが大事です。不器用さにより子ども本人と周りの大人に不安やストレスが大きいため、その子が「できる」という経験を積める支援を大切にします。
② 粗大運動
療育などで提供する粗大運動は、身体の使い方をその子に合わせることにより、不器用さを持ちながらも自分のできることを増やしていくことが可能です。
姿勢の安定性やバランス感覚の改善、筋力の強化を図ることで、日常生活や学校での動作がスムーズに行えるよう支援します。
例えば、バランスボールやトランポリンを使った運動療法は、楽しく継続できる活動として効果的です。また、理学療法士は、子どもが安全かつ効果的に体を動かす方法を学ぶ手助けをします。
DCDの子どもは日常生活で劣等感を感じやすくなってしまうため、「できる」を経験していくことが重要です。周りの大人は子どもの積極性を育てることを大切にし、不安やうつを抱えるリスクを減らしていきます。
③ 日常生活の中での支援
家庭や学校での日常生活の中での支援も重要です。具体的には、子どもがタスクを達成しやすくするための環境調整が挙げられます。
例えば、書字に困難がある場合には太めの鉛筆やタブレットを使用する、服のボタンをマジックテープに置き換えるなどの工夫が効果的です。また、教師や周囲の友だちがDCDに対する理解を深めることで、子どもが安心して活動できる環境が整いやすくなるでしょう。さらに、時間管理や計画のサポートを行うことで、子どもの負担やストレスを軽減することも重要です。
これらの支援や治療法を組み合わせることで、DCDのある子どもがより自立的で充実した生活を送ることが可能になります。専門家や家族が連携して支えることが成功の鍵となります。
発達性協調運動症(DCD)の特性がある子どもとの接し方のポイント
発達性協調運動症(DCD)の特性が見られる子どもたちと接する際には、特性を理解し、適切な支援を行うことが大切です。以下に、そのポイントを解説します。
①「不器用さ」は努力不足ではないことを受け入れる
DCDの子どもたちは、運動や手先の動きにおいて苦手な面を持っていますが、これは努力不足や怠けによるものではありません。発達に関する特性であり、本人が意図しているわけではないことを理解することが大切です。周囲がこの特性を理解し、無理に「頑張らせる」よりも、できたことを褒めて自信を育むような声掛けを意識しましょう。例えば、上手くできたことを具体的に伝え、「〇〇ができたね」と成功体験を共有することで、前向きな姿勢を引き出せます。
②「できないこと・苦手なこと」がある時は、環境調整を考える
DCDの子どもたちが困難を感じる場面では、本人にがんばらせるよりも、環境を調整することの方が効果的です。例えば、体育の授業で全員で同じ運動を行う際には、本人が得意な役割を与えたり、難しい動きを分解して教えたりするなどの工夫が考えられます。また、日常生活では、靴紐を結ぶことが難しい場合にはマジックテープ式の靴を使用する、ノートを取る際にはタブレットを活用するなど、具体的な対応が子どもの負担を軽減します。環境調整により「できる」体験を増やすことが、自己肯定感を高める鍵となります。
③ 楽しみながら運動できるように工夫する
DCDの特性を持つ子どもたちにとって、一般的な運動は苦手なことが多いものですが、楽しく取り組めるような工夫が重要です。例えば、ゲーム感覚で取り組める活動や、子どもの興味に合わせた動きを取り入れると、楽しみながら運動能力を向上させることが期待できます。また、成功の体験を重視し、失敗しても励まし続けることで、運動に対する抵抗感を減らすことにもつながるでしょう。友だちや家族と一緒に取り組むことで、社会的なつながりを感じながら挑戦できる場を提供しましょう。
④ 運動療育など、専門家のサポートを受ける
DCDのある子どもたちには、専門的な知識を持つ支援者による運動療育が効果的です。作業療法士や理学療法士は、個々の子どもの特性に合わせたプログラムを設計し、協調運動や筋力を向上させる支援を行います。これにより、子どもは自分に合ったペースでスキルを身につけることができます。また、専門家から家庭や学校での支援方法をアドバイスしてもらうことで、周囲の大人も適切な接し方を学ぶことができます。
DCDの特性を持つ子どもたちが安心して生活し、成長できる環境を作るためには、家庭、学校、専門家が一体となって支援を行うことが重要です。特性を理解し、寄り添ったサポートを行いましょう。
まとめ
発達性協調運動症(DCD)は、子どもの動作や運動スキルに関する困難が特徴です。親の育て方や努力不足が原因ではなく、特性に合わせた支援が必要です。粗大運動や微細運動、環境調整を活用しながら、お子さんができる体験を増やし、成功体験を積むことで自己肯定感を育みましょう。また、日常生活でのサポートだけでなく、専門家の助言を得ることも重要です。DCDを持つお子さんが安心して成長し、楽しく日々を過ごせる環境を整えるため、家庭、学校、専門機関が連携して支えていきましょう。
サポート方法に迷う場合は、ぜひ一度AIAI VISITにご相談ください。専門知識を持った経験豊富なスタッフが、具体的にできるサポート方法について一緒に考えます。